女性活躍、「模範」企業でも計画達成4割
日本企業はいつも変化の速度で海外の企業に遅れを取りがちです。日本特有の歴史と文化もあるのかもしれませんが、世界のビジネスで企業が競争に勝つには思いきった対応が期待されます。
企業の女性活躍への取り組みが停滞している。国から「模範」と位置づけられる事業者でも、自社の計画通りに女性登用を進めているのは4割強にとどまることが日本経済新聞の調査でわかった。ソニーグループが候補者研修を重ねて人材育成するなど、うまく軌道に乗せた企業は達成に向けた過程を明確にしている。国内の管理職比率が主要国で最下位という日本の現状を脱するには、危機感を生む環境づくりも欠かせない。
女性活躍は2013年に安倍晋三政権が看板政策として打ち出し、保育の受け皿確保などに年2000億円規模の予算をあててきた。16年には女性活躍推進法が施行。従業員301人以上の事業主に数値目標を含む2~5年程度の行動計画の策定、公表を求めている。
対象企業の第1次計画は一部を除き21年までに期限を迎えた。成果の公表は義務づけられていない。日経新聞は厚生労働省から女性活躍に積極的と認定された「えるぼし事業者」で従業員5001人以上の156社・法人から、直近に終えた計画の実績を聞き取った。
数値目標をすべて達成できていたのは69。66が未達で、10が開示を控えた。計画延長などのその他は11だった。模範的な企業群でも達成が半分以下では停滞感が否めないが、成功している企業は制度を細かく設計し、登用実績など実現に向けた過程を「見える化」している。
ソニーは20年度の女性管理職比率を15年度比9.5ポイント増の15.2%とし15%の目標をクリアした。部署ごとの候補人材に管理職向け研修を実施し、3~6カ月ごとのチェックで適性判断を重ねた。25年度を期限とする第2次計画では20%への引き上げを目指す。
女性管理職14年度比4倍以上の目標を果たした三井住友海上火災保険は「社員に高い意識を持ってもらうため」登用実績を自社サイトで公表してきた。積水ハウスは女性の管理職候補を毎年20人選んで2年間の研修を実施し、女性管理職200人登用の目標を1年前倒しで達成した。
女性の人材不足は多くの企業が抱える課題だ。新任管理職の女性比率14%と目標の2割に届かなかった富士通は「管理職を目指す女性も少なかった」。女性管理職比率10%以上を掲げて9%弱だったライフコーポレーションは「キャリアプランを明確に示せなかった」と説明する。
女性登用で先行する欧州では一定数を割り当てる「クオータ制」が主流。フランスは11年に上場企業の女性取締役比率を40%以上とする法律を制定した。違反すると新任取締役を選べなくなる罰則付きで、直近の大企業での比率は平均44%となった。ドイツは取締役を任免できる監査役会の女性比率を30%以上とすることを大企業に義務付けている。
国際労働機関の調査によると、19年の日本の管理職に占める女性比率は15%と主要国で最下位。これまで「女性活躍は企業自身で進めてもらう」(厚労省)と控えめだった国にも政策の強化が求められる。進捗を外部から見えるようにするなど危機感を促す環境づくりは重要だ。「女性管理職比率が業界平均より高い」などの条件を満たせば公共調達で優遇されるえるぼし事業も、運用の厳格化が欠かせない。
国連は女性活躍の推進を企業トップの責任と強調する。年金積立金管理運用独立行政法人の塩村賢史氏は「投資家も開示姿勢に加えトップの本気度を注視している」と指摘する。社会課題と積極的に向き合える存在であるかが問われている。