仕事も家庭も諦めない
コロナ後も普段から柔軟な働き方を提供する会社が今後は人気を獲得しそうですね。リモートなどの働き方が日系企業にももっと普及すると働く母に選択肢が広がります。
女性も転職で「生涯現役」
2021年9月に外資系IT会社の営業職に転じた高松絵美さん(39)は普段、在宅で業務をこなす日々を送る。小学生の子ども2人を朝8時に見送ってから仕事のメールを確認する。午後には子どもたちが帰宅するため「仕事の合間におやつを出したり、宿題を見たりしている」。
新型コロナウイルスの感染拡大が続くなかで転職を選んだのは、市場に求められる人材になるにはデジタルスキルを高める必要があると考えたからだ。転職先の条件で外せなかったのは仕事と子育てを両立できる会社。選択肢を広げたのがテレワークの普及だった。
リクルートの調査では、在宅勤務が可能な会社による求人数は21年1月に新型コロナ前の20年2月に比べて7.8倍に急増し、応募者数も4.6倍に伸びた。国土交通省によると、テレワークを実践する人の割合は20年度に19.7%と前年度の2倍となった。働く場所は自宅やカフェなど会社以外に広がり、働き方も柔軟になった。
家庭や子育てなどライフサイクルの変化に柔軟に対応しやすい就労環境が広がるにつれて、女性の転職は増加傾向にあった。総務省の労働力調査によると、女性の転職者数は20年には172万人とコロナ感染拡大の影響で前年比8%減ったが、それまでは6年連続で伸びていた。
選択肢が増えたことで女性の仕事観は大きく変化している。「仕事か家庭か」の二者択一を迫られた時代は過去となり、「生涯現役」を求めて転職する女性は少なくない。転職サイト「女の転職type」の調査では、何歳まで働きたいかとの問いに対して「60歳以上」が8割超を占めた。「一生涯」との回答も25%に上った。
風さりさんは30代で会社員から「女優業」の仕事に転身した。新卒で就職したのは大手旅行会社だった。旅行商品の販売を担ったが、次第にマニュアルに縛られる仕事に違和感を覚えた。3年前に英語を学ぶため渡英したのを契機に表現者として生きたいと思った。
こだわってきたのは自らの人生の選択肢を持ち続けること。「女優も生き方のひとつ。ずっと働き続けたいからこそ、やりたい仕事を自由に選ぶ」と力を込める。まだ駆け出しのため副業で生活を支える日々だが、「後悔はまったくしていない」と言い切る。
こうした女性のキャリア形成に影を落とすのは足元のテレワークの揺り戻しの動きだ。日本生産性本部が21年10月に実施した直近の調査では、テレワーク実施率は20年5月の約3割から1割近く下がった。働き方の柔軟性が下がれば再び選択肢を狭めかねない。
神戸大の大内伸哉教授は「政府が指示していたので仕方なくやっていたという企業が元の出社体制に戻す動きが出ている」と指摘する。企業側にとっても「テレワーク導入の本気度が優秀な人材をとれるかどうかの重要なテーマになる」と語る。
「優秀な女性が働きやすい環境になれば企業も成長し税収の増加にもつながる。女性活躍こそが日本経済の成長戦略の切り札になる」。日本女子大の大沢真知子名誉教授は政府や企業経営者の意識改革を訴える